Asia Foto Gallery 1Asia Foto Gallery 1            

                     

           国道6号線 タケオゲストハウスの怪     

 

これは知らない人は誰も知らないが、知っていても何の役にも立たない情報である。カンボジアのアンコールワットのある街シェムリアプに、「タケオゲストハウス」という奇怪な安宿があるのをご存じだろうか。「知っている」と答えた方は、きっと健全な社会生活を送っていないはずで、喜ばしいことだと思う。

 この街を東西に走る国道6号線沿いには、なぜか日本人だけが集まる不気味な日本人宿が密集している地帯があって、地元の人々もこの地域を「日本人村」と呼び慣わしている。ここには「チェンラゲストハウス」「アプサラゲストハウス」などという、知っていても何の役にも立たない日本人宿が渦巻いているのだが、その中で最もカゲキなのがタケオゲストハウスだろう。ここには素敵に、日本人しか存在しない。

 この中で使われている公用語はもっぱら日本語で、一見クラブの合宿場の雰囲気である。アンコールワットなどとっくに見飽きた人々が延々と8ヶ月も巣くっていて、しかも食事は3食出してくれるので、外に出て行く必要もない。よって、数カ月もシェムリアプに暮らしながら、宿の周辺20m以内のことしか知らない人がわんさかいる。彼らは何が楽しいのか、ハッパもやらず不純異性行為にふける訳でもなく、楽しく退屈な日々を送っている。ここのドミトリーには〃ドミ長〃と呼ばれる人種がいて、ドミに巣くう人々を仕切っている。誰かが宿を出ていくとなると、お別れパーティを開いて、Tシャツにみんなで寄せ書きしたりする。ここには「タケオ友の会」という会員組織があって、「2001年の幕開けをタケオで迎えようじゃないか!」などとやっていた。僕には全くついていけない世界なのだが、この宿の前のシェイク屋が安くて雰囲気がよかったので、毎日通っていたのだった。こんな人生でいいのだろうか。                               

(「リキシャ」2001年4月号掲載)